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友鶴(新造時)について

 防衛省防衛研究所には友鶴の転覆事故に関する資料が多数保存されている。その内容は事故の経緯から分析、さらには議会や報道への対応から義援金に至るまでの多岐にわたっていて、いずれも興味深い。事故については様々な書籍が取り上げているので、ここでは触れないが、遭難後の艦内の様子に関する報告は実に痛ましいものだ。

 

 事故当時、同海域には僚艦の千鳥がいて、友鶴は千鳥に続行する形で航行していた。両者の間は600〜800メートルしかない。もしも、友鶴の転覆が艦の構造に起因するならば、千鳥にも同じような危険があったはずだが、報告書には千鳥の状況についてはあまり書かれていない。

 千鳥と友鶴は同型艦ではあるが、建造には一番艦と三番艦の時間差があって、それゆえ各所に多少の違いがある。報告書には両艦の相違について少しだけ触れていて、復元性能に関して言えば、後発である友鶴の方がやや優れていたことをうかがわせている。千鳥はバルジ無しの状態で完成し、公試での旋回時の傾斜から、バルジを装着することになったが、友鶴は千鳥の結果を踏まえてバルジを付けた状態で進水している。また、艦内の重量物を一段下の甲板に配置するなど、重心位置の低下に配慮がなされている。したがって同じ条件であれば千鳥のほうが多少ではあるが、より危険であったことになる。操艦上のミスに関しては報告書で否定されているので、結局は友鶴が不運であったということなのだろうか。

 

 さて、その報告書には損傷の状態を記入した図と、転覆した状態からドックに引き上げられるまでを撮影した写真が付属している。図は水線下まで描かれた大体図と水線上の損傷見取図の2種がある。損傷見取図はおそらく公式図を元にしているようで、不明であった魚雷格納筺や運搬軌条、後部甲板の装備など上甲板の詳細がわかるものだ。残念なことに艦橋や主檣、煙突などは圧壊した状態に上書きされているため、詳細は不明だ。

 その不明点を写真などから推定を交えて再現してみたのが添付の図。縞甲板などの敷物状況は図からは不明なので、申し訳ないが各自で補足していただきたい。

より大きく詳細な図(1/200   2種)は下記のリンクより。右クリック保存か、別名で保存で。(20233.6.1修正)

 

その1:友鶴舷外側面図   その2:友鶴上面図・船体断面図

 写真から確認できるのは、千鳥型のバルジはよくある楕円形のふくらみという形状とは異なり、客船のプロムナードデッキのような帯状の張出しになっていることだ。このことは初春型の新造時のバルジの形状に関して、ひとつの示唆となりうるだろう。

 図からわかるようにバルジの水線下の部分は非常に浅い。波長が全長におよぶような大きな波に遭遇した場合、バルジはほとんど露出してしまい水中の艦幅は大きく減少することになる。さらには艦上の構造物の側面積が大きく、横風を受けやすい。報告書はこれらを事故発生の要因として挙げている。

 個人的には砲塔基部にある八角形の鉄甲板部に興味を引かれた。私は特Ⅱ型から夕雲型まで砲塔基部には多角形の鉄甲板部があったのでは、とニラんでいる。

 その他では、今回、どうもよく形状がわからなかったのが探照灯と機銃の甲板の下部の構造で、この部分は全く自信がない。ビルジキールの前端は写真から位置が特定可能だが、後端は推定。もう少し長いかもしれない。

 

 この図を見て、ここのところはこういう形のはず、という情報をお持ちの方がおられれば、ぜひご連絡をください。修正を加えて再度掲載したいと考えています。

2015.5.11 初出

 

千鳥型の中央構造物について 追記

 前回、友鶴の探照灯や機銃甲板あたりの構造がよくわからないと書いたが、その後、老猿さんより改装後の友鶴に関する資料をご提供いただいたり、改装後のこの部分の画像が集まったりして、おぼろげながら形が見えてきたので、解説および訂正を追加したい。

 

 結論から申し上げれば、見取図に書かれているのは友鶴の構造ではなく、おそらく千鳥のものだろう。その根拠は以下の図を見ていただきたい。千鳥(および真鶴)と友鶴の中央構造物は形状が異なっており、友鶴は見取図よりも一段低い構造で、明らかに異なるものだ。

損傷見取図

友鶴新造時

修正した中央構造

 上段左より損傷見取図の中央構造、友鶴新造時の写真、改装後の内部側面図を元に修正した中央構造。わかりやすいように同じ高さに水色の帯を敷いてみた。比較してみると、損傷見取図の探照灯位置は明らかに実艦よりも高い。

 修正した構造は実は友鶴の改装後のものをほぼそのまま使用しているのだが、写真と比較すると、新造時とほとんど変わらないことがわかる。

 左の写真は竣工時の千鳥だが、煙突基部のベンチレーターとの位置関係で比較してみると、探照灯の高さは損傷見取図と同じであることがわかる。

 問題の友鶴の中央構造物は思いのほか複雑な形状で、とりあえず図にしてみたが、細部は不明な部分も多く、あくまで推定であることをご承知いただきたい。単純な箱形ではない、面倒なカタチだということをご理解いただけるだろうか?

  ちなみに真鶴の新造時についてふれておくと、真鶴は艦橋の遮風装置が友鶴のような前面までのタイプであるようだ。

 

 友鶴の構造が異なるのは、上の方でも書いたが重心点の低下を考慮した結果だろう。このように改良を加えたにもかかわらず、友鶴の方がひっくり返ってしまったのだからわからないものだ。しかしながら一番安全なはずの艦が転覆したのだから、事態はより深刻だったのだろう。

 

 それにしても、なにゆえに友鶴の損傷見取図に千鳥の構造物が描かれているのか、そもそもこれは本当に友鶴の図を元にしているののか、謎がかえって増えてしまったようで頭が痛い。特Ⅱ型編で、公式図といえどもうっかり信用すると痛い目に遭う、という事を書こうと思っていたら、すでに痛い目にあっていたわけだ。なんだか訂正ばかりで情けない。

 「友鶴」を作ってみた。

 せっかくなので新造時の友鶴を作ってみた。今回は特Ⅱ型の予行も兼ねて、ボール紙とプラシートで船体を製作してみた。時間もないので今回はピットの武装セット(旧)からパーツを持ってきたのだが、ここを削り、ここを足しなどしてしまい、さらには中央構造物で手が止まってしまい、本当に時間がなくなってしまった。いずれきちんと形にしたいと思ってはいるのだが。

友鶴参考資料
図面関連/アジア歴史資料センター:友鶴転覆関係4(9) 【 レファレンスコード 】C05023974200 その他 友鶴転覆関係文書 グランプリ出版:『軍艦メカニズム図鑑 - 日本の駆逐艦』 光人社:図解・日本の駆逐艦 海人社:『日本駆逐艦史 世界の艦船 1992年7月号増刊』『日本駆逐艦史 世界の艦船 2013年1月号増刊』 ハンディ判日本海軍艦艇写真集21巻/海防艦・水雷艇 日本ニュース 

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