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陽炎型雑感

第1回〜その頂は暗く聳える 編

 陽炎型は新しい艦なので、大きな改装・改造もなく、また資料も少ないことから、差別化をはかることが難しく、ある意味作るのが難しい艦でもある。ただ、既存のキットに限って言えば、大小問わず、主砲と艦橋、それに後檣付近は手を加える余地があるのではないかと思う。

 私が展示会など行って、陽炎型があると必ず見るのもこれらの部分だ。特に羅針艦橋の後部は、形状といい、ディテールといい、作り手の解釈によって違いが出る場所なので、必見の鑑賞ポイントになっている。

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雪風の艦橋後部。BC間の傾斜部が見える

 方位盤を支える基部は、ともすれば単純な円筒で表現されたりもするが、実際には少々複雑な形状をしている。Rの付いた四角い底面(A)が、やや小さい四角(B)を経由して、方位盤下部の真円(C)になる、というものだ。構造の後半は大きいRの四角が円に変化していて、比較的な素直な円錐のラインで構成されているが、前半は、小さいRの四角が円に変っていて、方位盤の下で絞り込まれているようになっているために、斜め方向に傾斜部が生じている。

 

 陽炎型や朝潮型の写真の中には、方位盤は暗い色なのに、その下は明るくて、まるで色が異なってかのいるように見えるものがある。方位盤は垂直の曲面で構成されているので、上からの光をあまり受けずに、色が沈んでいるのに対し、その下は斜めに広がっているので陽光を受けて明るく見えるのだ。艦橋天蓋が明るく写っているのと同じ理屈で、色が違っているわけではない。

 

 ここで、サイトの趣旨とは異なるが、1/350の各社キットの解釈を見てみよう。(注:図はイメージ。実際のパーツとは細部が異なる)

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Hasegawa 1/350

ハセガワは形状を忠実に再現しようとして、Bの面で分割、B〜C間を羅針艦橋天蓋と一体化している。そのためBのところで分割線が生じる。この合わせ目をキレイに消している作例は少ない。

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TAMIYA 1/350

タミヤはB・Cが同一平面上に在るという解釈。方位盤下で段ができる。名作と言われるニチモの1/200の陽炎型も同じ形状で、古い大型模型など、以前はこの考え方が主流だった。

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Fujimi 1/350

細かいことは考えない。AからCまで一直線、というのがフジミ。上端と下端の各平面は間違っていないので、意外に違和感がない。これ見てると、小難しいこと言わずに、これでもいいんじゃないかと思えてくる。

 ハセガワは細かく分割することで、この形状を再現している。正確だが、少々組みづらい印象がある。タミヤはシャープで組みやすいが形状の解釈としては古い。フジミは強引だが組んでしまえばそれらしく見える。三者三様でみんな異なっているのが面白い。完全自作の大型模型なども同様で、形状以外にも背面のディテール(ラッタルとか窓とか)とか、製作者によって異なることがあるので、注意して見ると色々参考になると思う。

 

 ここで言いたいのは、キットの優劣ではない。こんな些末な部分でモノの良し悪しが定まるワケがない。

 要するに、上側面図から立体を推測するのは難しい、ということを理解していただきたいのだ。推測に推測を重ねて、写真と照合してみて、それでもよくわからないことが沢山在る。写真だって、少し前までは真っ黒にツブレたモノばかりで、何にもわからなかった。様々な解釈はメーカーや製作者の苦闘の跡みたいなもので、みんな悩んでいるのだ。良い悪いではない。だからあまり責めるのはどうかと思う。エラソーなことを言っても、たった1枚の写真で簡単に足元すくわれるようなことは、いくらでもあるんだからね。まぁ、お前が言うな、と言われるかもしれないが。

 

 1/700の各種キットに関しては触れない。お手元のパーツでご確認いただきたい。大きさが大きさだけにあまり多くを望んではいけないことは理解しているのだが、それでももう少しそれらしい形にしていただきたいな、と思う。陽炎型だけではなく、白露型・朝潮型にも言えることだけど。

 実は朝潮を作った時の反省があって、次にこの系列の艦橋を作る際には、方位盤とその下では、ほんの少し色を変えて塗ってみようかと考えている。同じ色だと言っていたではないかと叱られそうだが、変えてみたい。

 1/100とか1/200の大きなモノであれば自然と陰影がつくので同じ色でも構わないが、小スケールはそうはいかない。意図的に色の強弱をつけないと、それらしくはならない。塗装だってディテールなのだ。

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 しかしながら、方位盤の下が正しい形に、明るい色に見える形になっていてくれないと、色を変える意味が無くなってしまう。私は実物原理主義ではないので、何でもかんでも実艦通りでないとダメというわけではないが、以上のような勝手な理由から、ピットの新しい陽炎型の艦橋の造形には、すごーく期待しているのだ。

 

 次回は、そのピットの陽炎型を見つつ、あれこれどうでもいいようなことを述べてみたいと考えている。(2020.1.24)

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