陽炎型雑感

番外編〜旗甲板ってどうなってるんだ?

 信号所甲板、いわゆる旗甲板は実際はどうなっているのか。木製の部分であるとか、信号旗はどのように掛かっているのかとか、要するに外周の部分のことなのだが、その構造はいかなるものなのか、以前から知りたいと思っていた。一応調べてみたりするのだけれど、色々な人が、色々な本で、色々な図を描いたりするものだから、さっぱりわからん。下敷きになったであろう上側面図や諸甲板平面図なんかも、羅針艦橋は熱心に描いてあるが、信号所甲板は割合適当に描かれていて、結局よくわからない。

 そういうことで、ここ数ヶ月、イラストを描いては悩み、写真を見ては書き直しを繰り返していたのだが、ようやく、こんなものかな?というところが形になったので、少々書いてみたい。

 駆逐艦の艦橋後部にある信号所は信号旗掛に囲まれている。信号旗掛は外周の柵と、上端に設置された「信号旗板」と呼ばれる木製のラック、その上に張られた細い横棒、及び内側に立てられた「旗受」と名付けられた低い柵から成る(もしかすると内側に張られたネットが「旗受」なのかもしれない)。

 信号旗板の内側はスリット状の切り込みになっていて、ここに刻まれた凹部に信号旗の上側の連結金物が掛けられる。各スリットの下部にはフックが付いていて、信号旗の下側の連結金物はここに掛けられる。このあたりの構造はグランプリ出版の「日本の巡洋艦」の125ページに出ているので、お持ちの方は参照していただきたい。

 旗受からは外側に向かってネットが張られ、信号旗掛の底部を形成する。このネットの大きさや張り方には様々な種類があったようで、図によって異なっている描かれていることがある。

引き揚げられた「菊月」の艦橋後部。信号旗板の内側と旗受が見える。

 「日本の巡洋艦」の図では表面に金属板を貼ってあったり、角を丸めていたり、丁寧な造りになっているが、小艦艇は仕上げが雑なのか、加工を施してあるようには見えない。特に後期型は全体に曲線を廃してカクカクした印象がある。信号旗板は船体色のグレイに塗られていて、各信号旗の記号が白で書かれていた。「軍艦の模型」という本では、上面の塗色を茶色としているが、写真では色が異なるようには見えない。何らかの知見に基づいたものだと思うが、ちょっとわからない。

 以上が信号旗掛の基本構造だが、時期によっては細部に相違が見られる。それぞれの違いは図に示した通りで、ここでは便宜上、前期と後期という呼び方をするが、正式なものではない。変化の具体的な時期については不明だが、朝潮型以降が後期型、初春型(有明型)以前が前期型であるようだ。間の白露型は艦橋に前期と後期があって、後期型の信号所甲板の形状がはっきりしない。

 このような信号所の構造、時期的な違いは、海防艦や駆潜艇など駆逐艦以下の小艦艇でも同様であったとみられる。

後期型の例で、写真は「51号駆潜艇」。信号旗板が傾いている。背中を向けている作業員が、旗受の柵に腰掛けている。この艦は信号所全体を覆うようにネットを張っているが、旗受からもネットが張られていて、その部分だけ二重に見える。

「沖波」の艦橋。旗受と外柵の下段が連結しているのがわかる。信号旗板は焼失している。

信号旗板と柵の接続例。どちらも上からグレイに塗られていて、写真ではよくわからなかったりする。

 さて、信号旗掛の構造がわかったところで、これを模型でどのように表現すればいいのか?旗甲板は幕を貼ったエッチングの手すりで囲うのが一般的だが、小うるさいことを言えば、これは実際の形とは異なる。かと言って信号旗が並んでいる状況を再現するのも大変だ。やはりここは信号旗掛にカバーがかかった状態で作られることをオススメしたい。内も外もシートで覆われた、少し厚めの壁で囲ってしまうのが、リアルかつ簡単な方法だろう。外に膨らんだ形状と、シートの下に構造物を感じさせる形状とを、演出できればなおよろし。

 せっかく陽炎型のコーナーに書いたのだから、陽炎型の旗甲板も描いておこう。陽炎型にはこの他にも艦橋後面に信号旗掛がある。その構造はよくわからないのだけれど、カバーに覆われた箱を2つ付けておけば間違いない。

 例によってどうでもいいことを、長々と書いてきたが、細部に関してはまだまだ不明点も多く、解明できたとは言い難い。この問題については今後も検討と調査を続けたい。それにしても、それまで曖昧だったものが、はっきりした形になるというのは実に楽しいものだな。よく言わない人もいるけど、考証というのはやっぱり面白い。

 それはさておき、問題は今まで描いた図に訂正を加えなければいけないことで、睦月型の艦橋などは4面も描いて全部書き直しだ。悲しい。睦月型はその他の情報も盛り込んで、近日中に修正する予定。これを機会に、色々気に食わない「特Ⅱ型艦橋編」なんかも書き直してみようかな。今年中にはなんとかしたい、という希望だけはあるのだけれど。(2021.3.6)

「夕霧」の艦橋後部。信号旗板に各信号旗の記号が白文字で書かれている。

写真は護衛艦「さわゆき」の艦橋後部にあった信号旗掛。スリットと下のフックに掛けられた信号旗、上に張られた細いバーなど、基本構造は旧軍の駆逐艦と変わらない。護衛艦に搭乗する機会があれば、どんなものなのか、よく観察してみるといいだろう。

旗甲板について 参考資料

グランプリ出版:『軍艦メカニズム図鑑 - 日本の駆逐艦』 『軍艦メカニズム図鑑 - 日本の巡洋艦』 学研:19「陽炎型駆逐艦」、51「真実の艦艇史2」「日本の水雷戦隊」 光人社:「図解 日本の駆逐艦」 海人社:「日本駆逐艦史」「連合艦隊華やかなりし頃」  海文堂「軍艦の模型」 他

©2014.10.15 禁無断転載 図版の無断使用、加工等はお断りいたします。

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