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 先に発売されたハセガワの夕雲型が好評だったようで、続いて朝潮型がリニューアルされた。このクラスは長くピットロードのキットが定番だったが、秀作とはいえさすがに20年前の設計で、今回のリニューアル版と比較するとディテール、考証、価格面すべての面においてアドバンテージを見つけるのが難しい。さほどにハセガワのキットはよくできていて、わずかに散見される修正点もディテールの追加に類するものがほとんどで、大きな工作を必要とするものではない。ランクアップのワンステップがそれほど高くない、という点でも初心者にもおすすめのキットだ。ではくわしく見てみよう。

 船体は船首楼甲板と艦底を別パーツにした左右一体型。艦首先端は透けて見える程薄く、エッジがきいている。初期ロットに成型不良が生じているようで、入手したものにはヒケがあった。これぐらい直せないものではないと思うが、購入者はメーカーで対応してくれるとのこと。舷側には電路がキレイにモールドされていて、これは陽炎型を参考にしたのかな?朝潮型の舷外電路付きの写真は一例ぐらいしか見たことがないので、正しいかどうかの判断がつかない。

 艦橋はイメージに大きく影響する部分なので、できるだけ正確であってほしいのだが、キットの頂部の方位盤は朝潮型のそれではなく、夕雲型の大きなものになっている。本来の方位盤は特Ⅲや白露型、陽炎型とほぼ同様のものだ。夕雲型のものはこの型独自のもので上下に大きく、測距儀部分も形状が異なる。パーツ共用化はわかるが、なぜこんなところなのか理解できない。印象が変わってしまっている。

 細かいといわれてしまうかもしれないが、やはりこれはちょっと気に入らない。

 朝潮型の艦橋は図で見るとタテに細長く見えるが、写真ではそれほどには感じない。その理由は平面と立体の違いであったり、背面の配管や艦橋基部周囲の装備品がシルエットを太く見せていたりということなのだけど、私としてはそのあたりをどう工作していくか思案していたのに、出てきたキットが、頭に本来よりも1ミリ以上背の高いものを載せられていたものだから「なんてことしてくれるねん!」という心境なのだな。気にしない人はそのままでも充分な朝潮型ができあがるが、可能ならば他キットからパーツをもってくることをおすすめする。

 スキッドビームの支柱は全て同じパーツを使用するよう指示されているが、実際には前部と後部とでは形状が全然違っていて高さが大きく異なる。前部の支柱は白露型やピットのキットから流用するか、少し低いが不用パーツになっている夕雲型のパーツを利用するといいだろう。一番いいのは、前後ともレインボーあたりのエッチングに替えてしまうことだが。ディテールアップパーツ発売の際には、この部分が修正されていることを望みたい。そういえば旧版も前部のスキットビームが低かったなぁ、もしかしてオマージュか?

 夕雲からのパーツ流用と言えば、キットの主砲はC型でなくD型で、夕雲型のものだ。詳しくはサイトの「連装砲について」を参照していただくとして、開戦時のC型を再現するならば、とりあえず照準室上面のスライド部は削ってツライチに。照準室前扉の外側もカドを落とす。砲塔前面には仰角制限装置も付けてやりたい。

 砲身をもう少し細身でテーパーのついたものに交換すると、艦全体の印象もグッと良くなる。砲身部分は静協のXパーツと同じ分割だが、実はXパーツの砲身がそのまま使える。まるっきりそのままでは少し短いので、製作編では基部を加工して使用する方法を試してみたいと思っている。

 先ほどの方位盤もそうだが、このキットには、はじめに夕雲型ありきといったところがあって、そこが少々気にかかる部分だ。朝潮型のパーツは白露型や陽炎型にも使用可能なのだけど、夕雲型のものは独自で応用がきかない。同形でもなく汎用性があるわけでもないパーツを共用するというのはどういう意図があるのだろう。C型砲にしろ、発射管や方位盤にしろ、ハセガワの技術で精細なパーツを起こせば、また違った需要も出てきたのではないの?と思うのだけど。

 キットの指定では煙突前の機銃を13ミリ連装にしているが、朝潮は竣工時から25ミリ連装だったはず。これは写真でも確認できる。他の朝潮型も開戦前に25ミリ連装に換装していて、余った13ミリは特型に流用された、と記憶していたのだが、違ったかな?

艦橋左舷の烹炊所煙突の周辺は、おそらく図のような状態だったはず。キットは下部艦橋壁面の吸気筒と烹炊所煙突基部が一体になっているような解釈だが、この2つは別々のものだ。このあたりはカッターに隠れて、見えづらい部分だが、朝潮の写真とは明らかに異なる。朝雲の側面図には煙突基部の形状が書き込まれているが、やはりキットとは異なっている。

峯雲と機銃増備に関して

 朝潮に続いては峯雲のリリースがアナウンスされていて、機銃増備後ということになっている。18年春の朝潮型といえばビスマルク海で沈没寸前の朝潮の写真が残っている。この写真を拡大してよく見ると、どうも艦橋前に銃座が無いように見える。おそらく朝潮は機銃を増備しないままで終わったのだろう。朝潮と荒潮の戦没が18年の3月3日で、峯雲が翌々日の3月5日。所属が異なるので推定でしかないが、峯雲も機銃を増備していなかったのではないか。

 戦時中の捕虜収容所を扱った「トレイシー」というノンフィクションがあって、その本の中に捕虜になった日本兵が描いた峯雲の側面図と艦内図がある。記憶を頼りに描いたにしてはけっこう細かく描かれていて感心するのだが、実はその図の艦橋前に銃座が無いのである(煙突前の機銃は25ミリ機銃とだけあって、連装なのか三連装なのか記述が無い)。単なる状況証拠でしかないが、先ほどの朝潮の件と合わせて考えると、私としては峯雲の機銃増備に関してはちょっと懐疑的だ。毎度身勝手な考証ですいませんが。

 以上、キットについて好き勝手に言ってみた。色々言ったけど、どれも大したことないでしょ?後編では実際に作ってみながら細部や塗装についてもう少し述べてみたい。製作のポイントは「配管」だ!(2017.10.30初出)

 ハセガワの朝潮を製作なさっている、という方から質問をいただきました。朝雲や夏雲、山雲の写真に写っている一番連管前の、吸気筒横に写っている四角いものは何ですか?というもの(写真1)。14年の性能改善工事後の公試写真に写っていて、左右両舷にあるようだ。
 私が思うに、おそらくこれは「箱」です。
 すいません、それ以上のことはわかりません。ただ、これに関してはそんなに気にしなくてもいいのではないかと思う。翌年には無くなってるみたいなので。

 昭和15年の紀元二千六百年式典に出席した満州国皇帝が帰国する際のお召艦が「日向」で、岸壁から「日向」まで一行を運んだのが警護艦だった「朝雲」。その「朝雲」に乗艦する様子が日本ニュースに残っていて、問題の一番連管付近が写っている。写真2がそのキャプチャなんだけど、例の「箱」が無いんですよ。すっかり無くなっている。このことから分かるのは、問題の四角い箱は運用上必須なものではなく、ましてや構造物なんかではない、ということだ。じゃあ、何か?と言われてもわかりません。多分、何かの箱としか言えない。

 再度搭載したかもしれないので、この箱を載せても間違いではないし、載せなくても間違いとは言えない。あまり気にせず作ってください。私は面倒なんで載せないですけど。
 それにしても、きちんと作っている人は着々と完成させているのだな。反省した。
(2017.12.7追記)

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