ヤマシタホビーから「吹雪」がリリースされた。Ⅰ型に限ったことではないが、特型はキットに恵まれず、比較的新しいピットロードのものでも口の悪い人に言わせると「テキサン改造の零戦みたい」な状態だったので、ニューキットの発表は正しく待望のものであった。

 既存のキットの問題点は、バリエーション展開のために無理矢理な部品共用を図った結果、色々なタイプが混ざったものになってしまっていることで、これらをひとつひとつ丁寧に修正していくと、ほとんどスクラッチのような多大の労力を要することになる。作業半ばで放棄に追い込まれた経験をお持ちの方も多いのではないか。

 特型自体個艦の相違点が多いので、細部はこの際置いておいて、今回はⅠ型の基本的な形状が正しく捉えられているかどうかを検証していくことにしたい。

 それではヤマシタのキットを見てみよう。

 キットのパッケージはウォーターラインの駆逐艦と同じ大きさのキャラメル箱で、さらに厚みのあるものだ。裏面はカラーの上側面図になっていて、体裁はWLSと同じなのだが塗装や実艦解説のような説明文は一切ない。側面図はどういうわけか左右逆版になっている。以前指摘したが、ホームページの3D画像もなぜか逆版であった。社風か?

 塗装図は何を参考にしたのかマストの上部が黒くなっていて組立図の指示も黒塗装だ。マストは構造の関係上黒っぽく写ることがあるのだけれど、真っ黒に塗装された見張所はちょっと記憶にない。自社作例でも黒く塗られていないのだから、ここはグレイで問題ないだろう。魚雷運搬軌条内はリノリウム塗装が正解。

 船体のパーツはハルと船首楼甲板、上甲板の3つのパーツからできていて、アオシマの初春型などと同じような構成だ。初春型はハルが共通で甲板を差し替えることによってバリエーション展開を図っているわけだが、ヤマシタの特型はちょっと変わっていて、上甲板を共通にしてハルと船首楼甲板を差し替えることによってⅡ型あるいはⅢ型への展開を考えているようだ。それゆえに上甲板のパーツの裏には内火艇ダビッド位置に未開通の孔があって、型に応じて開孔する必要がある。確かにⅠ型もⅡ型も上甲板の基本はそれほど大きく変わらないので、型別の相違がきちんと別パーツになっていれば問題はない。

 

 が、しかし。

 

 このキットは後部構造物を共通にして、しかも甲板と一体化してしまっている。Ⅱ型の資料編をご覧いただければわかるように、Ⅰ型とⅡ型ではここの部分が異なっていて、それによって三番砲の位置も変わってくるのだが、キットは構造の形状も三番砲の位置もしっかり「Ⅱ型」しているのである。A型砲塔に特有の旋回軌条がなぜか二・三番砲に関しては一切省略されているのは、上甲板と後部構造物のパーツがⅡ型のものだからだ。つまり、A型砲塔の脇を抜けて船首楼のラッタルを降りると、なぜかそこはⅡ型だった、ということだ。

 せめて後部構造が別パーツであれば良かったのだが、土台が甲板に作り付けの状態なので、修正はかなり困難だ。

 ただ救いがあるとすれば後部構造物は装備も含めてⅡ型としてはよくできていることで(左舷の機械室吸気筒は別として)、Ⅱ型の出来は期待してもいいのではないか。おそらくヤマシタとしてはⅡ型を中心に商品開発を行っているのだろう。構造物の形状や位置などは気にしなければどうということはないが、軌条が有ったり無かったりするのは、やはりいただけない。残念だが、私のようなモノ好き以外は、とりあえず旋回軌条を追加するくらいで目をつぶってしまうことをオススメする。

 

残念なことに二番砲にも三番砲にも旋回軌条が無い

砲塔の天蓋には外周とセンターに手すりがある。

ディティール派は再現してみては?

 船首楼甲板はおそらく初雪の新造時の図を参考にしたもので、繊細な彫刻と適切な形状で非常に良くできている。両舷の丸みは少しおとなしく感じるかもしれないが、実艦もこんなものでキットは正しい。ただ、艦首の滑り止め部はもう少し後ろまであるのではないかと思う。艦橋脇の滑り止め部は、私は見解を異にするのだが、長くなるのでここでは触れないでおく。後端の形状も同様。

 それにしても船首楼甲板にはスパンウォーターがモールドされているのに、上甲板には全くないのはどういうわけなのだろう。同じキットの中で部分部分でモールドが異なるというのはちょっと困ったことだ。魚雷運搬軌条もⅠ型としては特殊なものなので、上甲板だけ別パーツを再開発してもらえないだろうか。船首楼の彫刻が繊細なだけに非常に惜しい。

 

 ハルは、特型としてのラインをよく再現していて、申し分ない。ピットで問題になった艦首のフレアも十分な出来だ。残念なのは艦首の側面形がもうひとつなことで、前方向への張出しが不足していて角度によってはクリッパー型のような印象を与えてしまっている。ここは駆逐艦の魅力のひとつなので、下側を削るか上を増やすか、時間や技術と相談の上なるべく修正していただきたい。船首楼後端は改善後の初雪を参考にしたようで、短船首楼型としては、吹雪としては少し短い。

 艦橋、吸気筒など細部も初雪を参考にしたようで、考証派には色々不満の残るところかもしれないが、単純に特Ⅰ型として見る分には問題ないだろう。個人的にはキセル型吸気筒が煙突の付け根と一体化しているのが不満で、ここは別パーツにしていただきたかった。

 煙突前の機銃はどうしたことか、13ミリ単装2基になっている。90年代頃の古い資料でも使ったのかな?現在では特Ⅰ型は全艦、昭和14年には13ミリ連装1基に換装されたことがわかっているので、どこかから適切な大きさの連装機銃を調達してくるといいだろう。ちなみにⅡ型も開戦前に連装に換装されている。Ⅰ型を購入するような人はⅡ型も買うだろうから、この際多めに機銃を用意しておくことをお勧めする。

 キットの銃座は厚すぎるので、プラバン等で作り替えたい。Ⅰ型の銃座の支持構造は少し複雑で、テーパーのある支柱を中心に、前後左右の支持片と左右の細い補助支柱からなっていて、Ⅱ型とは全く異なるものだ。図を添付するので、詳しくはそちらを参照していただきたい。完全再現を試みて挫折した私が言うのもなんだが、銃座を載せてしまうとほとんどわからなくなってしまうので、作り込みはほどほどに。左右の補助支柱は追加すると複雑さと実感がほどよくアップするので、オススメの工作だ。

 

 探照灯の後ろの方探(ループアンテナ)は吹雪の場合は不要。特型の方探の有無に関しては法則性があって、Ⅰ型では吹雪と叢雲のみ方探が付かない。この件についてはいずれⅡ型の資料編で。

 

スキッドビーム類は形状は正しいのだけど(二番砲塔脇のものには疑問がある)、全般に太すぎ。どの部分も構造の下にくる可動部分が省略されているので、作り直しの際に追加工作するといいだろう。

 

 その他、マスト類はすべて少し高い印象があるのだけど、どうだろう?検討してみてほしい。

白雲の例:銃座の支持構造(イメージ)なんとなくわかっていただけるだろうか?

白雪や初雪などは左右の補助支柱が支持片(板状)に見える写真がある。

以上、ざっと見た印象を並べてみた。

 色々きびしいことばかり書いてきたが、現状、特Ⅰ型のキットではベストであることは間違いないわけで、タミヤやピットの奇怪なパーツを思うと文字通り隔世の感がある。このキットをベースにすることで、節約できる時間と労力ははかりしれないものがある、と言っても決して言い過ぎではない。細部はそれなりの工作とディティールアップが必要だが、このキットはそれに充分応えてくれるだろう。

 

 参考になるかどうかわからないが、吹雪の上側面図を置いておくので、よかったらどうぞ。

 

吹雪上側面図(1/700)

(2015.8.22一部修正)

 

 最後に小物に関してどうしても言っておきたいことがある。それは烹炊所煙突の基部のことだ。このキットに限ったことではないが、どうして駆逐艦のキットは烹炊所煙突の基部をきちんと形成しないものが多いのだろう。リールやダビットと違ってエッチングで置き換えるわけにいかないのだから、ここのところは正しい形状のパーツを是非入れていただきたい。単なる棒みたいなのはいい加減やめていただきたい。自作、結構面倒なんだよ!

(2015.7.20 初出)

 

 

 

©2014.10.15 禁無断転載 図版の無断使用、加工等はお断りいたします。

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