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 今回はキットレビューの続編で、実際にヤマシタのキットを組み立ててみた。基本方針としてはできるだけ素材(キット)を活かして、と考えているのだが、そこはそれ何分物好きなものだから、余計な所に手を加えて収拾がつかなくなる可能性もある。とりあえずⅡ型発売までの話のつなぎとして3回くらいでやっていくつもりなので、あまり期待せずに読んでみてください。

 

 第1回は懸案の旋回軌条問題を中心に船体の工作を。

 

 この件に関してはネット上でも色々な人が、様々なアプローチをしていて実に興味深いものがある。A型砲の旋回軌条がこれほどまでに話題に上ったのは史上無かったことではないか。(タミヤのキットにも軌条は無いのだけれど)手抜きが大好きな身としては一番簡単な方法でラクしたいのだけど、やはり色々言った手前そうもいかず、正攻法で修正してみることにした。 修正方法は下の図のような手順で行ったのだが、幸いな事にキットのプラは比較的柔らかい材質なので、切ったり削ったりがそれほどむずかしくない。思ったほど困難ではなかった。

 軌条関連の修正よりも面倒だったのは、甲板と船体の間のすき間で、モールドを潰さないように埋めるのがむずかしい。みんなこれ、どうやって直しているのだろう?ちょっと迷ったが、0.1ミリのプラシートを1、2枚スペーサーとして埋め込んだ上に、スパンウォーターを上から貼ってごまかしてみた。

 キットのような甲板はめ込み式の欠点は、ボラードとかフェアリーダーなどの、本来は舷側いっぱいの位置に付いている装備が船体パーツの厚み分だけ内側にきてしまうことだ。今回、キットのボラードの位置とスパンウォーター、拡張した艦尾の滑り止め部とキットのリノリウム押えのモールドの位置などで色々悩んだのだが、なんだか面倒になって、結局後甲板のモールドを全部削り落としてしまった。“素材を活かして”という当初の目的は早くも怪しくなっているのである。(つづく)

 滑り止めはキットのピッチに合わせたものを用意してみた。大体同じになっているのではないかと思う。本当はもっと細かいピッチのものが好みなのだけど。

 船体と甲板の間はけっこうスキ間が空く。甲板の左右ギリギリまでモールドがあるので修正がむずかしい。

 

 とりあえず今回はここまで。色々手を加えていて、大変そうに見えるかもしれないがそれほどでもない。タミヤのキットを作った経験から言わせていただくと「すごーーーくラク」。

貴重なディティール情報が多数。未発表写真も有り​

マニラの残照  マニラ湾におけるわが海軍艦艇の最後Ⅰ​

 戦艦や巡洋艦などの大型艦と比較すると、駆逐艦などの小艦艇の場合、艦上で撮られた写真、クローズアップの写真というものが極めて少ない。細部を知りたいと思った時に障害となるのは、ディティールの分かる写真が無いことで、個艦の相違を再現しようとして躓くのはいつもそれが理由になる。そんな時に参考になるのが事故写真や損傷後の写真で、これらによって初めて分かることも多く、不謹慎かもしれないが大変重宝している。

 「マニラの残照」は1944年のマニラ湾空襲によって着底した艦艇の写真をまとめたものだ。マニラでは大小多数の艦船が沈没しているが、本書はその中から沖波、初春、曙の三隻の駆逐艦を取り上げている。

 最も写真点数が多いのは沖波で、比較的原型を保っていることもあって、D型砲や艦橋、銃座など夕雲型のディティールに関して貴重な情報を提供している。本文でも言及しているように夕雲型は個艦による相違が結構有るのだが、これらをきちんとまとめた資料というものはまだない。今後このクラスを研究しようという方には本書は必携の資料となるだろう。

 個人的には曙の写真に興味があって、詳細の不明な上部艦橋前面の装備や船首楼の敷物状況がわかるのでは、と勝手に期待していたのだが、残念ながら被弾時の損傷が激しかったようで、写真からは思ったような回答は得られなかった。しかしながら自分の求めるものがここ(マニラ関連)には無いらしい、ということも実は貴重な情報なのである。

 掲載された写真にはどれも丁寧な解説が付されているが、本来は読者自身が写真から情報を読み取っていくべきだろう。ぜひ時間をかけてじっくりと写真を眺めていただきたい。

 同人誌という性格上、入手が少々面倒なのと、買ってすぐに役に立つというわけでもないので万人向きではないが、駆逐艦好き(そんなに多いとは思えないが)ならば手に入れて損はないはずだ。

 続刊として同じくマニラで着底した木曽の本が予定されていて、筆者としてはどうもそちらが本命らしい。5500t級マニア(いるかどうか知らないが)はご期待されたし。

 

「マニラの残照」 発行:海防史料研究会 小高正稔 B5判 1,000円(税別)

 2015.10.16初出

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