ヤマシタホビーの特型もついにⅡ型がリリース。吹雪の時に述べたとおり、このシリーズはⅡ型を中心に開発されたとみられるので、3型式の中では一番出来がいいのではないかと期待されるものだ。

 今回発売された「綾波」は、ネームシップでもあり、人気の高さからも無難な選択なのだが、改善後の資料がほとんど無いことや細部が他艦と異なっていたりと、少々厄介な艦でもある。

 ホビーサーチやAmazonの解説では綾波と敷波、朝霧、天霧、狭霧をⅡ型前期建造艦と称して、このキットを使用すればいずれかの艦を作ることが可能だとしているが、そんなにうまくいくのかな?という気がしないでもない。(注:パッケージや説明書にはそのような記載はない。)

 それでは前期建造艦の相違などに注目しつつキットをみてみよう。

 船体はいつも通りのバスタブ形。上甲板もいつもの共通パーツで、屈曲した軌条は相変わらず。Ⅱ型では「朝霧」がこのタイプの軌条を敷いている。

 船首楼甲板はⅡ型用に新たに開発されたものだが、後端部分に欠けがみられた。2個買って2個とも同じような状態だったのだけど、湯回りの不良だろうか。修正はそれほどむずかしくはないが、できれば改善を望みたい。表面モールド(敷物状況)については後述。

上部艦橋天蓋は何故にクリアパーツ?上部艦橋前面と、 方位盤、測距儀を少し低くしてやると印象がよくなる。

 艦橋はこのキットで一番違和感を覚える部分。「綾波」といいながら羅針艦橋正面が角張っていて、「霧」グループの艦橋のようだ。前面には遮風装置のようなものが付いているが、改善後の「霧」にはこのような突起は付かない。なにを参考にしてこのような形状になったのか、ちょっとよくわからない。

 羅針艦橋より上の部分はやや背が高い。これはパーツの厚みの分、持ち上がっているからで、上部艦橋は全体が高くなっている。修正はちょっと面倒かもしれない。艦橋がなんとなく細長く感じるのは、おそらくこの部分が原因だろう。写真を見ながらそれらしくなるように色々手を入れてやりたい。

 頂部の測距儀は開戦前に3メートルの九六式に変更されたと思われるのだが、キットは2メートルの一四式のままで、ここはパーツだけでも入れていただきたかった。Ⅱ型やⅡA型は九六式に換装した際、旋回範囲の関係で前檣を10度後傾させている。その結果、後方の三脚に折れ角が付くのだが、これをきちんと再現したキットや作例をあまり見たことがない。新製品がでるたびに密かに期待していたのだけど、やっぱりこのキットもスルーしてしまうのか、と少々がっかり。

 煙突まわりはお椀型のベンチレーターのパーツが、新たに起こされている。

 二番煙突のベンチレーターにはいくつかのバリエーションがある。大きくわけると煙突前の部分が短いものと長いもので、前者が綾波と朝霧、後者がその他の艦ということになる。写真をよく見ると、銃座の先端がベンチレーターの前に出ているものと、そうでないものがあると思う。識別のむずかしい綾波と敷波の竣工時からの最大の相違点も実はここにある。さらに綾波は右舷の切り欠きの形状が直線になっていて、他艦とは異なる独自のものになっている。

 キットは寸法的には前部分が長いタイプでありながら、切り欠きは綾波と同じ形状という、いずれをとっても中途半端なもので、現実には存在しない形になっている。まあ個艦の相違をよほど細かく再現しようと考えなければ無視してもいいわけだが。

 二番煙突前の銃座は、連装機銃に換装された際に拡張されていて、その形状は下図のように外に膨らんだもので、単純な矩形ではない。  

 なぜこの形がわかるかというと、お手元に学研の「70 完全版特型駆逐艦」がある方は、ちょっと開いてみていただきたい。中程に折込みの「天霧」の図があるかと思う。この中にある、上甲板平面図の二番煙突のあたりをよく見ると、元の銃座のライン(左舷だけだが)が残っているのだな。ここから図を起こして、煙突との比率などを見てみると、同じ本にある「夕霧」の銃座の写真とよく合致する。すなわちこれが拡張後の銃座の形状ということになる。もっとも「漣」のように拡張せずに連装に換装した例もあるので、全ての艦がこの形かどうかは断定できないのだけれど。

 ちなみにⅠ型は戦争中期に連装2基に増備、銃座を拡張しているが、その際の形状も、これと同じか、これに近いものではなかったかと考えられる。

あまり知られていないことだが、 特型のお椀型吸気口の上面、 煙突の周囲は滑り止めになっている。 おなじみの写真の中にもそれが 確認できるものがいくつかある。

吸気口の中段にはリブ(凸部)が表現 されている。Ⅲ型のキットよりも進化した 部分だ。

 内火艇は7.5メートルと6.5メートルの2種。どこかに7.5メートル2隻が正しいのでは?と書いてあったような気がするが、一般計画要領書では、綾波型の内火艇は計画7.5メートル×2に対し、現状(18年4月)7.5メートルと6.5メートル各1になっているので、キットが間違っているとは言えないと思う。状況によって搭載艇が変わることもあるし、あまり深く考えないほうがいいだろう。私なんかは面倒だからダビッドだけ付けて載せなかったりするけどね。

 図は天霧の船首楼甲板で、一番砲基部の鉄甲板部と艦橋まわりの滑り止め部など、Ⅲ型とよく似た構成だ。夕霧を除く霧グループとⅡA型は図のような甲板だったと考えられる。綾波と敷波はこれとは異なっていた可能性もあるのだが、残念ながら資料が無い。夕霧は初雪同様、艦首を失った関係で、ダビッドが違っていたり一番砲の位置が違っていたりで、はっきりしないところがある。初雪の例から考えると、艦橋周辺の滑り止めは無かったのではないか。 これからリリースされるであろう、後期建造艦の船首楼甲板は、新規に開発したものをいれていただきたいと思う。

 一応これで特型の主要型式は出そろったことになる。良好なシルエットの特型が手頃な価格で揃えられるというのは、実にありがたいことだ。ただし、決定版かと問われると、いささか答えに窮する。

 このシリーズは部品の共用化に無理があって、惜しいことに、どの艦を作るにしてもそれなりの問題を抱えてしまっているのである。それを「工作する楽しみ」と捉えられるかどうかはユーザー次第ということになるのだろうが、現在、甲板を全面貼り直し中の身としては「楽しみ」の範疇を超えている、という気がしないでもない。残念だが、他メーカーにも新規開発の余地はあると言わざるをえない。

甲板貼り直し中の特Ⅲ型。Ⅱ型でも同じ作業が………。

 私がこのシリーズで評価したいのは、甲板のパーツの構造物の取り付け場所が一段凹ませてあるところで、これには感心した。  完成品を写真に撮って、何が一番がっかりするかというと、甲板と構造物の間にすき間があることを見つけたときで、駆逐艦のような小艦はどうしても必要以上に寄った写真になってしまうために、このようなすき間が非常に目立つのである。一段低くしてすき間を見えなくする、という方法は駆逐艦のような小艦にこそふさわしいものだ。 艦船模型はとかく考証に目が向かいがちだが(お前が言うなと言われてしまうかもしれないが)、こうした「模型」として優れた部分も、もっと大きく取り上げていただきたいと思う。金型に一手間かかる分、メーカーの負担も大きくなるのだろうが、これが今後の小艦艇模型のスタンダードになることを望みたい。

 特型のレビューは今回で一応、終了とします。今後、後期艦や機銃増備後のキットがリリースされるのかもしれないが、今のところ、このサイトで取り上げる予定はないです。色々余計な事を言ったので、修正した作例をⅡ型製作編で公開していく予定。細部やⅡ型後期艦等については、その中でふれていきたい。

 ところで、サイトのアクセス状況から察するに特型のムーブメントは終わっているのではないか?こちらもちょっと飽きてきた。そろそろ次の艦を考えたい。(2016.12.7)

©2014.10.15 禁無断転載 図版の無断使用、加工等はお断りいたします。

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