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 ヤマシタの特型の第2弾は意外にもⅢ型の「響」だった。順当にⅡ型の「綾波」あたりを出してくるだろうと思っていたのだが、どのようなニーズを想定したのか、ちょっと意表をつかれた感がある。

 「吹雪」のときに感じたのは、メーカーが念頭に置いているのは比較的ライトなユーザーではないか、ということだ。お手軽で、そこそこ特徴をつかんだ特型を提供する、というのが方針なのではないか。それはそれで悪い事ではない。だとすると、細部をあれこれ言われるのはメーカーとしては不本意なのかもしれない。まぁ、そこは物好きのやることだから許していただきたいものだ。  

 最初にお断りしておかなければいけないのだが、実はⅢ型についてはあまり自信がない(他もないが)。というのも、Ⅲ型のスタイルに、どうにも好きになれない部分があって、あまり興味が持てないのだ。また、そうなると不思議なことに資料も集まってこない。したがって本編のⅢ型編というのも今のところ予定はしていない。だからこれがⅢ型編ということでご覧いただければ、と思う。  前置きが長くなってしまったが、今回も「響」というよりはⅢ型としてどうなのか、という点を中心に見ていきたい。例によって無駄知識を羅列していくので、適当に情報をチョイスして、模型作りに役立ててください。

 船体の構成は「吹雪」同様、ハルと船首楼甲板、上甲板の3つからなっている。ハルは型に合わせて船首楼が長いものが入っているのだが、やはり艦首側面のラインがもうひとつ物足りない。これはおそらくヌキの問題だろう。バスタブ型は反り返りが少ない、ということらしいのだが、こういうデメリットもあるわけだ。 なお、船体のランナーには煙突や右舷のスキットビームが付いていて、どうもⅡ型と共通になるようだ。後述のとおりⅡ型とⅢ型では異なるのだが・・・・

 問題の上甲板のパーツは残念ながら「吹雪」と同じで、魚雷運搬軌条は屈曲したものになっている。

 Ⅱ型の資料編で解説したように、このタイプは佐世保竣工艦のもので、Ⅲ型では「暁」のみ該当する。改善前の「暁」の図が「写真日本の軍艦別冊2」に収められているが、軌条は屈曲したタイプになっている。キットはこの図を参考にしたのでは、と思われる部分があるのにもかかわらず、「暁」ではなく「響」としてリリースされていて、ちょっと解せないところだ。ちなみに「響」や「電」は改善後の公式図が残っているが、どちらも軌条は直線。甲板上のモールドを考えると、この修正はやはり困難だろう。

 さらに言えば右舷の軌条は少し短い。

Ⅲ型は甲板室が少し短縮されて、後檣基部が再び 前面に出てくる。

 その上甲板には前作同様、後部甲板室の基部が作り付けになっていて、形状はやはりⅡ型のものになっている。「吹雪」の時に、ヤマシタはⅡ型を開発の中心に据えているのでは?と書いたのは、実はこの部分のことを指している。

 Ⅱ型とⅢ型は大きさや位置関係は似ているのだが細部が異なる。ただし、修正はⅠ型ほどむずかしくはない。とりあえず右舷の下向きの吸気筒は不要なので、ここの部分は切り取っておこう。このパーツはよく形を捉えているので、捨てずにとっておいてピットやタミヤのキットに使用するといいだろう。 図に示したように甲板室及び後檣、吸気筒などの後部構造物は各型で異なっており、共用はそもそも無理が有る。

水色部分は魚雷収納筺。キットは上甲板を各型共通に してしまったため、色々なパーツの位置がⅢ型とは 異なるものになっている。

煙突は前後で高さが異なる。また角度も異なる。 キットの二番煙突は位置が少し前に出ている。

 このキットの問題点は中央部に集中している。

 特に気になるのは、煙突関連。二番煙突はⅢ型ではなく、Ⅱ型のもの。Ⅲ型は断面が小判型で扁平な形状だ。おそらくパーツの共用化によるものだろうが、ここはきちんとしたⅢ型の煙突を入れていただきたかった。

 そのままでもⅢ型に見えなくもないが、二番が少々低い。図を見ていただければわかるように、2本の煙突高が同じなのはセンター部分で比較した場合であって、見た目の高さは異なる。どの艦でもいいので、実艦写真をよくみていただきたい。二番煙突が、若干だが高く見えるのではないかと思う。これは太さの違いと傾斜から、二番煙突の前半部分が一番煙突よりも高くなるからだ。キットは、煙突の前後同寸を取り違えていて、結果、二番煙突が実際よりも低いものになっている。ここはベンチレーターより上の部分を0.5ミリほど嵩上げしてやりたい。

 一番煙突と二番煙突の相違は高さや太さだけではなく、傾斜角度も異なっていて、一番煙突のほうが傾斜が少し大きい。ヤマシタの「響」は一番の傾斜がややおとなしく、2本の角度が同じになっている。ピットや古いタミヤのキットでもこの辺の違いはきちんと表現されていたのに、どうしたことか?

 この、後ろの煙突が高かったり、2本の傾斜が違ってたりする、ヘンテコなバランスがⅢ型の特徴で、どうにも好きになれない理由のひとつなのだけど、キットはそのあたりをきれいにスルーしていて、なんだか実物よりカッコイイ。デフォルメが入っているのかな?違っているけどあんまり直したくない。弱ったね。「きれいなジャイアン」状態だ。

煙突の角度の違いがよくわかる ショット。実艦はこんな風に ちょっとヘン。

前後の煙突のパーツをぴったり くっつけてみると、ジャッキステーが一直線になる。つまり 角度が同じだということ。

 右舷のスキッドビームは形状が異なっていて、キットはⅡ型と同じもの。残念ながらⅢ型は図のようにもっと前後に幅が広い。 念のために申し上げるが、煙突にしろ、スキッドビームにしろ、既存の出版物や作例の中にも同じ過ちを犯している例が散見されるので、ひとりヤマシタだけが違っているわけではない。 吹雪もそうだったが、ヤマシタのキットはきちんと公式図や写真にあたったとわかる部分がある一方で、雑誌や他キットなどの二次資料に準拠したと思われる部分があって、どういうわけか、そういう所にかぎって「ハズして」いるのである。よくわからん。

 

 探照灯と方探室は、改善前の旧タイプでキットの設定年代とは合わない。13ミリ連装機銃はオーバースケールで、これを収めるためか銃座が少し大きく、それが結果として二番煙突を前に(0.75ミリほど)押し出す形になり、煙突間を実際よりも窮屈なものにしている。(窮屈というよりも締まった感じで、ちょっとカッコイイ)銃座は右舷のみ0.8ミリほど高くして段差を付けたい。

 

 その他、軌条の位置を変更したり、吸気筒を追加したり、手を入れだすとキリがなくなりそうなので、修正する方はよく考えてから着手していただきたい。なにもしない、という選択もある。

開戦時の烹炊所煙突の先端は実艦写真のような形状。キットは大戦後半のもの。

支持架までモールドしたのは立派。でもさすがに太すぎ。配管と間違われるので金属線か伸ばしランナーと交換したい。

 

前回、文句を言ったからではないだろうが、今回は烹炊所煙突の基部が成形されていた。形は少し異なるがパーツ可していただけるだけでもありがたい。ちなみに実際の形状は千鳥型と同じもの。

​につづく

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