特Ⅱ型資料編       

ループアンテナと方探室

方向探知器

 探照灯の後方にはループアンテナが立っていて、長波の方向探知器(方位測定機)がある。これは竣工時からあるものではなく、後から取り付けられたものだ。特型だけではなく神風型や睦月型でもそうだが、方探が後付けされた艦は、アンテナだけではなく、その下に方探室と呼ばれる設備が付属する。遠景の写真ではアンテナが消えてしまうことがあるが、方探室の存在が確認できれば、その艦は方探を搭載していることになる。

 特型の方探装備は昭和8年ぐらいから始まって、11年あたりにかけて行われたようだ。(夕霧は昭和10年の第四艦隊事件時の写真では方探が無いが、性能改善後の写真では確認できる)ただ、全艦装備したわけではなかったようで、艦によっては未装備のままのものもあった。

 この未装備の艦と装備した艦の違いは何なのか、どういう理由なのかがどうもよくわからないのである。各駆逐隊1艦の割合で未装備なのかと思えば2艦の隊があったりで、パターンが見えてこないのだ。しばらく悩んでいたのだが、戦前の駆逐隊の編成は3隻体制の時代があったことを思いだした。前述のように方探の装備時期は8年から11年の間なのだが、この時期の駆逐隊の編成は3隻であったはずだ。そこで再び並べ直してみると、大体各駆逐隊あたり方探の定数2でうまく納まるのである。

 まあ、不明の艦もある上に文書の裏付けがあるわけでもないので憶測でしかないのだが、3隻体制での状況がそのまま4隻体制へと移行したのではないか。

 その方探と方探室には新旧2つのタイプがあって、形状が異なっている。(Ⅱ型だけではなく、Ⅰ型にも新旧がある)特型は戦争までに10年近い艦歴があるので、その装備品は時期によって相違がある。砲塔はよく言われることだが、、魚雷発射管の防楯や方探室などはあまり取り上げられることのないものだ。

 旧タイプの方探室は後部に双眼鏡とその張出しがあって、アンテナもやや大きなものだ。駆逐艦に搭載された長波の方向探知器は「九一式」と呼ばれるもので、新タイプの小さなアンテナのものは公式図などで「九一式二号」という記入が確認できる。

 では、旧タイプは「九一式一号」なのかと言うと、どうもそうではなくアンテナの大きなものも「九一式二号」であるらしい。(「昭和八年度艦船無線改装実施一覧表」の方向探知器の欄に特Ⅲ型の電に「九一式二号」を装備した、という記述がある)このあたりの電気兵器のサブタイプに関しては資料が無く、詳しいことがわからない。  旧タイプから新タイプへの改装時期だが、性能改善工事後の公試写真でも旧タイプを装備している艦があることが確認できるので、おそらく昭和12年かそれ以降のことだろう。

 昭和16年10月の20駆の霧グループ、そして6駆のⅢ型、開戦時の叢雲の状況から考えると、昭和14年前後に方探を装備していなかった艦はそのまま開戦を迎えた可能性が高いのではないか。ヤマシタのキットの解説で吹雪は方探が無かったのでは?と書いたのは、吹雪は昭和15年の空撮で未装備が確認でき、キットの設定年次である1941年では装備していなかった可能性が高いと考えられるからだ。(ちなみに2600年観艦式の吹雪とされる写真は実は初雪である)

 戦時改装で追加された可能性は否定しないが、それにも少し疑問がある。

 というのも方向探知器というものに対する用兵側の評価が必ずしも高くなく、それほどの必要性があったとも思えないからだ。戦時中の無線兵器の需要は中波へと移行しつつあり、長波のみを目標とする「九一式」はすでに遅れた兵器であった。加えてその探知能力は50海里にすぎず(50海里といえば92キロでしかない)、煙突など周囲の構造物に遮蔽されて成績もけっして良好では無かったようだ。これらは戦前から問題になっていたが、結局解決できないままに終わってしまった。7年以上の長きにわたって未装備の艦があるのは、無くても支障がなかったということでもある。 

 電探が登場して以降、方向探知器の使用は限定的なものとなり、18年6月の艦船無線兵装標準の改訂では、駆逐艦の方向探知器の搭載は廃止されている。18年に計画された松型にループアンテナが無いのは、方向探知器が搭載されていないからだ。

 

 今回は状況証拠ばかりで憶測だらけの内容になってしまった。電探以外の電波兵器の資料は少なく(残念ながら日本無線史は閲覧できなかった)それを装備した艦側の資料はさらに少ない状況で、はなはだ心許ない。新事実が判明すればいつでも訂正するつもりだ。お読みの方で、詳しい情報をお持ちの方、事実をご存知の方、間違い等をご指摘をいただけたら幸いである。

(2015.9.21初出)

※1:写真集連合艦隊(朝日ソノラマ)の中に、昭和12年宿毛湾を出港する綾波と敷波の写真がある。

   綾波には方探室が確認できるが、敷波の探照灯の後ろには何もない。

※2:2600年観艦式の白雪とされる艦は浦波である。探照灯の後方に方探室が確認できる。

※3:深雪は昭和8年の写真で装備が確認できる。この時期の白雪の写真で探照灯後部の詳細が確認できる写真が無い。

   白雪は本来未装備のはずだったが、深雪が事故で喪失したため方探を装備したのではないか。

※ 「雷」は17年秋に方探を装備したと考えられる形跡がある。

 

方向探知器編参考資料

駆逐艦漣・舷外側面及上部平面図  ダイヤモンド社:「日本海軍艦艇写真集 駆逐艦」 光人社:「日本軍艦写真集」 ハンディ判日本海軍艦艇写真集16巻/駆逐艦 吹雪型[特型] 歴史群像 太平洋戦史シリーズ18 「特型駆逐艦」 70「完全版特型駆逐艦」 朝日ソノラマ:「写真集連合艦隊」 アジア歴史資料センター:C05023910800 桜と錨の海軍砲術学校:「海軍電気技術史」各部

 

©2014.10.15 禁無断転載 図版の無断使用、加工等はお断りいたします。

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