特Ⅰ型資料編        特Ⅰ型製作編       

吸気筒

形状の謎

 特型の吸気筒というと、どうしても一番前の大きなキセル型のものに目がいってしまうが、外形を構成する上で大きな役割を果たしているのは、実際には二番煙突の前にある中央部の吸気筒である。この構造は、銃座の支持構造の一部であるだけでなく、その開口部は左右の魚雷格納筺と関連があり、また魚雷装填用のビームの立脚点でもあるというように、様々な装備と密接な関係がある。この形状が正しくないと、色々な構造物の形状も、また正しくないことになる。

 

 では、その正しい形状とはどんなものであろうか。タミヤのキットはこの部分を2本の吸気筒で、ピットは一体化したパーツで表現している。どちらが正しいのか言うと、どちらも正しく、どちらも正しくない。正解は、2つの異なる形状の吸気筒をひとつにつなげたもの。なんだか、わかったようなわからないような物言いだが、実際、複雑な形状で、ちょっと表現が難しい。とりあえず図にしてみた。つたない図だが、なんとなくご理解いただきたい。

 右舷にほぼ垂直な断ち落としがあって、魚雷装填用のビームの1本が、この壁面に張り付くようにして立っている。この垂直部分を省略してしまうと、ビームの形状も変えないといけなくなってしまう。この断ち落としが存在する理由は、おそらく魚雷の出し入れのスペースの問題だろう。これがあるが故に右側の吸気筒は構造内で複雑な形状になっているようで、そのことが銃座の中心支柱を左にずらし、銃座を左舷にオフセットする要因となっていると考えられる。

 

 全体は滑らかな一体形で、側面のエッジも丸めてあるなど、非常に「丁寧」な構造。手がかかりすぎたのか、型では簡単な平面の組み合わせによる構成になっている。型が「工業製品」とすると、型は「工芸品」の趣きがある。

 

 

長船首楼型と短船首楼型の違い

 長船首楼型と短船首楼型の相違点は、船体形状の差だけではなく、各種構造やその配置など細部にも存在する。キセル型吸気筒の開口部断面の相違はよく知られたことだが、吸気筒の形状が異なるのはそれだけではない。「日本軍艦写真集」の95ページに叢雲と薄雲が2隻並んでいるのを横から撮った写真がある。(その他の本にも同じ写真があるが「日本軍艦写真集」が一番明瞭)手前が叢雲、奥が薄雲で、煙突や艦橋、砲塔などは当然のことながら奥にある薄雲のものが若干低く写っている。ところが吸気筒に関しては高さが同じか、あるいは手前の叢雲の方が低く写っているのである。長船首楼型の各吸気筒が低いのは初雪や深雪の図でも確認することができる。3つある吸気筒それぞれについて詳しくみてみたい。

前部のキセル型吸気筒は断面のみならず、位置関係も違っていて、長船首楼型の方が若干後ろになる。図の緑の線が短船首楼型。長船首楼型は前端がフレームNo63のラインにあるが、短船首楼型の前端はそのラインよりも前になる。その差は700分の1にして0.4ミリほど。また、高さも若干低くなっている。高さが異なることは、上記の写真でも確認することができる。長船首楼型の写真の中には、前半部が何か間延びした印象のものがあるが、それはこの辺りに原因があるのではないか。

 

中央部の吸気筒は長船首楼型が低くなっていて、そのためか丸みが強調された形状になっている。長船首楼型のこの部分が低くなっているのは、煙突のジャッキステーと銃座の位置関係、あるいは銃座と探照灯の位置関係の比較で、写真からも確認できる。その差は手すり半段分くらいで700分の1ではほとんど差がない。

後部の吸気筒も長船首楼型が低くなっていて、それ故に探照灯の台座が短船首楼型とは異なるものになっている。探照灯やその後ろの方探関連はすべて同じ高さ。ただ吸気筒だけが高さが異なっている。その差は手すり1段分ほど。700分の1にして0.5ミリ強の差がある。白雲の魚雷格納筺は初雪のそれよりわずかだが、長くなっているのだが、それが短船首楼型と長船首楼型の差なのか、個艦の差なのか、残念ながら検証できるだけの材料がない。なお、探照灯の支持構造は鋼材を組み合わせたもので、銃座にあるような円柱の支柱はない。方探の有無や形状に関しては型編でまとめて取り上げる予定。

 

ここで言い訳

 ここでは構造物の配置や寸法について0.4とか0.5とかいう数値を出しているが、この通りに模型を作らなければならない、ということでは決してない。模型は好きに作ればいいし、キットのパーツにノギスをあてて、どこが何ミリというようなことをするつもりもない。ただフォルムというもの、イメージというものは、こうした細かな数値の集積であることも事実なので、組んでみたものがなんとなく実艦に似ていない、というような時には、解決の何かのヒントになるのではないかと思う。より良い(イメージの)ものを作る参考にしていただけたら幸いである。

 

2015.1.20 初出 

 

吸気筒編参考資料

駆逐艦初雪・舷外側面及上部平面図 駆逐艦深雪・舷外側面及上部平面図 駆逐艦白雲・舷外側面図 ダイヤモンド社:「日本海軍艦艇写真集 駆逐艦」 光人社:「日本軍艦写真集」

©2014.10.15 禁無断転載 図版の無断使用、加工等はお断りいたします。

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