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特Ⅰ型資料編        特Ⅰ型製作編       

船体 その2

改善工事後の船首楼甲板の形状について 後編

前回は船首楼を延長した艦についてみてきたが、今回は延長しなかった艦、すなわち改善前と同一の形状を保っていたのではないかと思われるケースについて考えてみた。

 吹雪は改善工事中の写真と、完成後の公試時の写真が何枚か残されている。公試の写真は左舷から撮られたもので、斜め前とほぼ真横の2枚がある。この写真をよく見ると、左舷の波切り板の上辺が斜めに切り欠いたようになっている。上辺の後端はすなわち船首楼左舷の後端で、左舷の甲板が右舷よりも短いことになる。そして、その位置は改善工事前とほぼ同一。したがって左舷の延長は無かったと思われる。また、白雲に見られるような烹炊所煙突の移設もない。
 問題は左舷を延長しなかったのは吹雪だけなのか、ということだ。別項で触れるが、海軍は改善工事を実施するにあたり、吹雪を試験台にしたのではないかと思われる形跡があって、吹雪のみが他の艦と違っていたとしても不思議はないのだ。

 次に東雲について検討してみる。

 東雲には改善工事後の写真があって、これは右舷から撮られたものだ。ところがこの写真を拡大してよく見ると、船首楼の左舷後端が写っているのがわかる。問題はこれが延長されているのかどうか、判定できないことだ。

そこで図のような簡易な3Dモデルを作って検討してみた。船体形状は対称で作成しているので、船首楼後端は左右同じ長さになる。つまり左舷を延長した状態だ。これに延長しなかった場合の後端位置にマーカー(赤の三角)を置いておく。

砲塔や艦橋、煙突などの構造物が写真の東雲とほぼ同じ位置にくるようにして、作成したのが上。正横から見たものよりも艦首が短く艦尾が長く、斜め後ろから撮影されたものであることがわかる。船首楼後端に注目してみよう。左の画像は部分拡大したもの。これからわかるのは、もしも左舷が延長されていたならば、その後端は煙突の向こう側になるということだ。ところが実際の写真では煙突の手前で甲板が終わっている。そしてその位置は延長されない場合のマーカーの位置とほぼ等しい。このことから改善工事後の東雲は、左舷後端を延長しなかった、と考えられる。

※注 東雲を撮影した堀元美が使用していたのは、ベスト判のベストコダックf8とセミ判のウェルタ ペルレf4.5で、この写真もそのどちらかで撮られている。ウェルタ ペルレは75ミリだが、ベストコダックのレンズは不明。比較的安価なものであったようなので、おそらく72ミリとみていいだろう。それゆえ、3Dのカメラの画角は「標準」に設定している。

性能改善後の特1型の船首楼甲板は左舷を延長した艦としなかった艦があるのではないか、というのが現時点での私の考えだが、白雲に関しては根拠が甘いのでは、というご指摘もいただいた。その内容はごもっともで、この件に関しては引き続き検討していきたい。性能改善後の船体に関してはその他にも少々厄介な叢雲の問題など、まだまだ未解決の課題がいくつもある。新たな事実が判明した場合には、また公開していきたいと考えているので、気長にお待ちいただければ幸いである。

(文中敬称略)

 

船体編参考資料

駆逐艦初雪・船外側面及上部平面図 駆逐艦深雪・船外側面及上部平面図 駆逐艦白雲・艦内側面図 駆逐艦白雲・舷外側面図 駆逐艦白雲・諸甲板及船倉平面 朝日ソノラマ文庫戦史シリーズ「写真集連合艦隊」 ハンディ判日本海軍艦艇写真集16巻/駆逐艦 吹雪型[特型] 歴史群像 太平洋戦史シリーズ18 「特型駆逐艦」

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