船体 その1
改善工事後の船首楼甲板の形状について 前編
特Ⅰ型の船首楼甲板後端は?
特Ⅰ型の船体最大の謎は、船首楼甲板の形状が不明なことだ。特Ⅰ型には短船首楼型と長船首楼型の2種類がある。ところが現在残っている公式図で平面がわかるのは、初雪(長船首楼型、性能改善前・後)と深雪(左舷長船首楼型・右舷短船首楼型)のみで、スタンダードともいうべき短船首楼型の図が残っていないのである。
だが、まったく手がかりが無いわけではなく、白雲の上甲板平面図および艦橋各甲板平面図に記入されている船首楼甲板後端のラインから、改善工事前の後端形状についてはほぼ特定可能だ。左の図がそれで、艦橋後方に張り出しがあり、右舷側が波切り板より後方に飛び出している、左右非対称の複雑なものだ。改善前の特1型には正横からの鮮明な写真が多く残されているので、確認してみると確かに右舷のラッタル付近の手すりが後方に突き出たようになっているのが確認できる。
次に性能改善後の短船首楼型について考えてみる。公式図としては、白雲のものが残されているが、これは側面図のみであって上面図はない。この側面図と改善工事前の形状を参考に推定したのが左である。
その根拠は次のとおり。
烹炊所煙突の位置に注目してみる。性能改善後の白雲は烹炊所煙突が艦橋後方に移動しているのだが、この位置は改善前には甲板がなかったところだ。すなわち白雲の船首楼甲板の左舷は延長されていることになる。
さらに白雲の側面図を子細に眺めてみると、船首楼甲板の手すりが後端で二度の折り返しになっていることに気づく。このことから後端のラインが直線ではないことと、艦橋後方に張り出した部分があることがわかる。
これらを元に推定したのが左下で、初雪の改善後に近いものだ。(初雪の性能改善工事後の船首楼甲板は、短船首楼型と比較するとフレームNo.でひとつ分短い。中央部が張り出したようになっているのは、この下に第一缶室への吸気口があるため。)
特Ⅰ型の舷側の波切り板は、改善工事前は船首楼甲板の左舷後端の位置を基準としていたが、改善後は右舷の位置に合わせたものになり、形状も変化している。
特Ⅰ型は性能改善工事で船首楼甲板を延長した、という説が以前からあるが、実はその根拠は明確ではない。この波切り板の形状変更が出処か。
●白雪の船首楼甲板の形状について(4/25訂正)
白雪の船首楼甲板は左舷が延長されていたのでは、という内容を掲載したところ、老猿さんから、それは違うのではないか、とのご指摘をいただきました。私は甲板上のリノリウム押えが首尾線に垂直交わるので、これを左右の位置関係の基準線として使用できるのでは、と考え、それを元に白雪の左舷は延長されていたのでは、と書いた。
しかしながら、それはあくまで平面上のことであって、写真のような俯瞰した状態では必ずしも適切ではない、というのがお送りいただいた内容です。
船首楼甲板に関する老猿さんのお考えは既にブログで書かれていることなので、ここで私が何か言うのも屋上屋を架すようなものだが、せっかくなので少々解説させていただきたい。
左右の位置関係の把握には左右の高さが同じ物、マストの横桁や吸気筒の上端部分を基準とすべきである。(写真ではわかりやすいのでマストを利用)そのラインを右舷の艦首甲板後端に合わせると左舷の後端はラインよりも前になる。従って白雪の船首楼甲板左舷は延長されていないことになる(写真左)。
リノリウム押えは甲板のキャンバーの関係で、俯瞰した状態の場合、角度がついてしまい左右の位置関係の基準とするのは適切ではない。(写真右)
以上が老猿さんのお考えだ。実はリノリウム押えを基準にしてみると左右のボートダビットの位置が合わなくなり、そのことがちょっとひっかかっていた。ところが老猿さんのおっしゃるように横桁を基準にすると、ダビットも同一ライン上になり装備品の矛盾もなくなるのである。つまり明らかに老猿さんのお考えのほうが正しい。
1:マストの横桁に平行な線を引き、その線を基準とする。
そしてその線を下にずらしてみる。
2:艦首甲板の左舷後端が前に出ているのがわかる。
(左舷が短い。延長なし)
3:そのラインに合わせるとボートダビットの位置は
左右同じであることがわかる。
リノリウム押えに平行な線を引きその線を基準とすると、
左右のダビットの位置が合わなくなる。
実になんともいい加減で申し訳ない。全体の写真を見れば一目瞭然なんだからすぐに気づけよ、ということですね。しかし、考証してて楽しいのはこういうふうに、パズルのピースがピタっとはまるように疑問が解決する時でもある。
老猿さんありがとうございました。訂正します。白雪は左舷延長しておりません。読者の皆様にも誤解を与えたことを深くおわびいたします。
(2015.4.25初出)