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特Ⅰ型資料編        特Ⅰ型製作編       

なぜ様々な高さに見えるのか

煙突

煙突の低下寸法

 煙突に関しては、開戦までに短縮されたとか、短縮されなかった艦もあったとか、人によって言う事がバラバラではっきりしない。またどれくらい短縮されたのかも明確ではないのが実情だ。その原因は、性能改善工事後の図や写真の中に、明らかに煙突が短縮されていないものがあるからで、例えば艦スペの折り込み図の元になった白雲の側面図は、改善工事後のものだが、煙突は短縮されていない。公式図が不正確なのはままあることだが、昭和11年撮影の東雲の写真(船体編2参照)は船体に改善工事の形跡が見られるにもかかわらず煙突は長いままだ。

 結論から言ってしまうと、特型及び型(A型は除く)は全艦、煙突を短縮している。では、前記の図や写真はどういうことなのか。以下に解説してみたい。

 

 まず下記をご覧いただきたい。この表は昭和11年度機関長会議の参考資料である「艦船改造新設事項概要」(C06092450200)を元に作成したものである。

性能改善工事における煙突短縮寸法(単位はミリメートル)

※川内は従来、近代化改装に際し第一煙突のみが短縮されたといわれていたのだが、実際には微量ながら第三煙突も短縮されていたことが判明したので、駆逐艦ではないがここに記載する。川内の短縮前の煙突高に関しては、前方より 10.3、8.12、8.72、8.12(メートル)という数値があることを併記しておく。なお、川内の煙突短縮は、艦橋高を約1.4メートル減じたことと側方の張出しを縮小したことによって悪化した、後方視界の改善を目的としたもので、重量軽減は副次的なもの。

 表の黄色い部分が特型。よく見ると、吹雪の名前が無い。しかしながら吹雪が煙突を短縮したのは写真によってあきらかだ。

他には初雪の短縮量が他艦と異なることに気づく。この件に関しては「官房第3189号 11.7.3 駆逐艦白雪、叢雲、東雲、薄雲、白雲、磯波、浦波、綾波、敷浪煙突改正の件」(C05034986100)と「官房第3056号 11.6.26 駆逐艦初雪、夕霧煙突改造の件」(C05034985900)という文書があって、理由が述べられている。

 すなわち、煙突の短縮量は本来前後同寸であったのだが、「探照灯台等二煙ノ来ルヲ極力避クル為メ」1番煙突が2番煙突よりもやや高くなるよう、寸法の改正が行われた。ところがこの改正が決定した時点で、初雪および夕霧は工事が終了していたために、この2艦に関しては改正の適用が見送られたのである。では、なぜ「探照灯台等二煙ノ来ル」不具合があることが確認できたのだろうか?

 

2度あった性能改善工事

 ここで話を戻して煙突を短縮しなかった艦について考えてみる。「艦船改造新設事項概要」では確かにどの艦も短縮が行われたことになっているのだが、それでも白雲や東雲のように短縮されていない(ように見える)艦があるのも事実だ。この件では本当に悩まされた。一体どういうことなのだろうか?

 しかしながら或るとき、白雲の側面図の実物(のコピー)を某所に見に行って、そこに書かれた日付をみて、なんとくわかってきた。

どういうことかと言うと、性能改善工事は2回あって、船体の補強ならびに改造、主檣の短縮などが1回目、煙突の短縮が2回目で、2つの工事の間には半年前後のインターバルがあるということだ。すなわち改善工事後であるにもかかわらず、煙突が長いままに見える白雲と東雲は、このインターバル期間中の姿なのである。

ただしこのスケジュールには例外があって、初雪と吹雪はすべての工事を一度に行っていて、このことが事態をより複雑なものにしているのだ。

 わかりやすくなるように図にしてみた。

 吹雪が船体の改造と煙突の短縮を一回の工事で済ませているのは、11年3月の公試時の写真で確認することができる。なぜ吹雪が全ての工事を一度に行ったのか、その理由は不明だ。これは想像でしかないが、海軍は吹雪を、先行量産型ではないが、一種の試験台としたのではないか。吹雪の運用結果が煙突の短縮寸法の改正というカタチでフィードバックされた、と考えるとつじつまが合うのである。※注:白雲の工事期間がやたら長いが実際にはこの間に1〜2ヶ月のインターバルがあったようだ。

 型についても少し触れておくと、事情は型とほぼ同じで、吹雪に対応するのが天霧、初雪に対応するのが夕霧、ということになる。なお、A型は計画のみで短縮はされていない。

 

 いずれにせよ、昭和12年以降の特型の煙突に関しては、吹雪と初雪が前後同寸、その他の艦が前方が若干高くなっている、というのが特徴だ。その差はわずかでしかないが、2艦並ぶとそれになりに差が出るものである。この、吹雪と初雪以外は1番煙突が少し高い、という件は後ほど別項でふたたび触れることになるので、しばし記憶にとどめておいていただきたい。

2014.12.15初出

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